「アナザーサイドオブテヅカ」原宿ビームスで手塚治虫トリビュート展

 

アナザーサイドオブテヅカ_タイトル

 

手塚治虫先生といえば、知らない人はいない漫画の神様、ですよね。さん付けするのもなんだか恐縮なので先生と呼んでみました。

鉄腕アトム」や「ブラックジャック」「火の鳥」などなど山のように代表作があり、先日もアニメ「どろろ」が大盛況のうちに完結したところです。

今回記事にするのは、そんな手塚治虫先生の生誕90周年を記念してRockin’ Jelly Beanさんによってキュレーションされた、手塚治虫先生のトリビュート展「『アナザーサイドオブテヅカ』~オレたちの黒いテヅカ~」です!

 

『アナザーサイドオブテヅカ』(Another Side of Tezuka)展示概要

アナザーサイドオブテヅカ_メインビジュアル

 

参加アーティスト

  • Rockin’Jelly Bean ロッキン・ジェリービーン
  • Katsuya Terada 寺田克也
  • Kads MIIDA カッズ・ミイダ
  • Nampei Kaneko 金子ナンペイ
  • SONY SUZUKI ソニー・スズキ

日時・会場

2019. 7/12 [fri] – 31[wed]
11:00 – 20:00 (First & Last Day – 18:00)
at TOKYO CULTUART by BEAMS (Harajuku BEAMS 3F)
入場無料

イントロダクション

エロを独自のPOPなスタイルで魅せる覆面画家 Rockin’Jelly Bean。
手塚治虫生誕90周年の今、RJBを中心に、彼と親交が最も深い気鋭のアーティスト5人が集結!
《あの手塚作品がこうなった?!》
明るく健康的なイメージの手塚作品はもちろん、手塚ファンの間で囁かれる”黒テヅカ”を中心に、5人が愛と敬意を込めて創作し、フィードバックさせた、一風変わった手塚治虫トリビュートSHOWが原宿「カルチャート by ビームス」にて開催されます。

会場では今回の展示に合わせて製作したオリジナルグッズや書籍を販売し、また5人の作品の元となった手塚治虫オリジナル作品の複製原画や複製原稿も展示します。

ぜひここで、あなたの知らなかった、またあなたが大好きな手塚作品の違った側面に触れてください。

公式Facebook

 

展示コンセプトは「黒テヅカ」

今回のトリビュート展では、手塚治虫先生の作品の中でも「黒テヅカ」と呼ばれる、比較的暗い作品群をテーマに選んだ作品が展示されているのが特徴です。そういう意味で“Another Side of Tezuka”というタイトルになっている訳ですね。

 

「黒テヅカ」(黒手塚)とは

はい、新出単語です。黒テヅカって何ぞや?とググってみると、以下のような記事がヒットしました。

黒手塚 (くろてづか)とは【ピクシブ百科事典】

手塚治虫自身が忌み嫌った問題作『アラバスター』が復刻、人はなぜ「黒手塚」に惹かれるのか | マグミクス

 

要するに、王道的というかメジャーというか、少年に夢を与える漫画家!みたいな世間一般のイメージとは異なる、人間の残酷な部分を描いた手塚作品がファンの間で「黒手塚」と呼ばれているようです。

(そもそも手塚漫画はどの作品にも暗い部分があるので、特定の作品を指していうのではなく手塚漫画の中にある暗い部分そのものを「黒手塚」と呼ぶ用法もあるようです)

特に、1960年代後半から1970年代初頭にそうした作品が多かったそうな。

因みに私はというと、まともに読んだことのある手塚漫画は『ブッダ』『ブラックジャック』『どろろ』『奇子』(あやこ)くらいなんですが、まさに『奇子』が黒手塚作品なんですね。なんで数ある作品の中でこんな尖った漫画買っちゃったんだろう。

 

企画に至った経緯

手塚プロダクション公式サイト「虫ん坊」にて、今回の展示に至るまでのRockin’ Jelly Beanさん、あらきゆうこさん(手塚プロ)の対談が掲載されていました。

覆面画家Rockin’Jelly Bean × 手塚プロダクションあらきゆうこ 覆面座談会|虫ん坊|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

 

展示作品

会場は撮影可でしたので、雰囲気が分かる程度に会場の写真を公開してみようかと思います。

 

寺田克也さんの作品

アナザーサイドオブテヅカ_寺田克也_01

左から『アラバスター』『プライム・ローズ』『どろろ』

会場入り口から、寺田克也さんの作品がお出迎え。それぞれプリントの販売もされています。

これらの作品は吉祥寺で定期的に開かれている「手塚治虫文化祭『キチムシ』」で展示販売されていたものですね。『アラバスター』については、女性キャラクター・亜美が今回のために手前側に加筆されているようです。

「キチムシ」公式サイト

 

アナザーサイドオブテヅカ_寺田克也_02

12体の『鉄腕アトム』(廃アトム)

こちらの12体のアトムたちは、アトムが完成する前の失敗作である「廃アトム」があったんじゃないの?という切り口で描いたもの。寺田克也さん自身、手塚漫画の中で「『鉄腕アトム』が別格で好き」とのこと。

会場ではこの廃アトム缶バッジも販売されています。後述しますが、廃アトム一人一人にキャラ設定(?)があるようです。

 

寺田克也さんと手塚漫画

寺田克也さんが手塚漫画を題材に絵を描いたのは今回の展示や前述の「キチムシ」だけではありません。今ざっと思い浮かぶだけ挙げましたが、以下のような絵も描いておられます。

 

『Lemni3003 第3号』:鉄腕アトム

『レミニ3003』vol.3

Amazonはこちら

こちらは2003年に発行された『レミニ3003』という書籍の表紙イラスト。1巻、2巻も寺田さんが表紙を描いておられますが、3巻では「ロボット」がテーマということでアトムを題材にしたようです。

アトムの靴が赤いのは、元々手塚先生がアトムを女の子として描こうとしていたからだとか。そんなエッセンスを込めて描かれた女体アトムなのかもしれません。

 

『SF Japan VOL.3 冬季号 手塚治虫スペシャル』:鉄腕アトム

SF Japan VOL.3 冬季号 手塚治虫スペシャルAmazonはこちら

こちらも鉄腕アトムですね。アトムとプルートゥの決戦シーン。2001年発行のムック本です。こちらはさっきの女体アトムとは違って王道を行く感じのイラストですね。かっちょいい。

因みに、永井豪さんと寺田克也さんの対談も収録されています。司会は米沢嘉博さん。手塚漫画との出会いや、その魅力について語られています。

永井豪×寺田克也クロストーク「ぼくたちの神様」

米沢嘉博さんの『手塚治虫マンガ論』なども読んでみると手塚先生の作風への理解が深まったりするのではないでしょうか。手塚漫画のエロ・グロなど「アナザーサイドオブテヅカ」で触れているようなテーマにも言及しています。

 

『コミックキューvol.6』:魔神ガロン

コミックキューvol.6

(表紙はAmazonより引用)

こちらは1999年に発行された漫画雑誌。『魔神ガロン』を題材にした寺田克也さんのフルカラー漫画が掲載されています。全4ページのセリフ無し漫画です。

寺田克也さんが描いた『魔神ガロン』

 

色々なインタビューでも手塚治虫先生に多大な影響を受けたと述懐する寺田克也さん。きっと他にも手塚漫画を題材に描いたキャラクターがいるのでしょうが、今思いつく限りではこれだけです。

 

金子ナンペイさんの作品

アナザーサイドオブテヅカ_金子ナンペイ

取り上げた作品は右から『ミクロイドS』『奇子』『三つ目がとおる』の3作品。

中でも『奇子』(あやこ)については、「主人公である奇子の、狂わされた物が何かということを感じてもらえるような作品にしたつもりです」とのこと。トークで話しておられたのですが、「奇子」の絵は、日南響子さんをモデルにしているとのこと(顔は変えているとのこと)。怪しげな魅力に満ちた作品です。

金子ナンペイさん公式サイト

 

SONY SUZUKIさんの作品

アナザーサイドオブテヅカ_SONY SUZUKI

取り上げた作品は『七色いんこ』『38度線上の怪物』『アラバスター』の3作品。目が沢山あるのは、アラバスターに登場する、目だけが残った透明人間の亜美を描いてるんですね。特に思い入れがあるのは『七色いんこ』で、主人公と同じくニューヨークでゼロからキャリアをスタートした自分の感情が移入できて好き、とのこと。

SONY SUZUKiさん公式Instagram

 

Rockin’ Jelly Beanさんの作品

アナザーサイドオブテヅカ_Rockin' Jelly Bean

取り上げた作品は『アポロの歌』『地球を呑む』『ふしぎなメルモ』『きりひと讃歌』。いつもセクシー&キュートな女の子を描いているロッキンジェリービーンさんですが、手塚先生の女の子を描くにあたって意識したのは「女性は“マル”で構成して描く」という手塚先生の言葉だったそうです。

メルモちゃんの丸いお尻に、ドキドキしてしまいました。

Rockin’ Jelly Beanさん公式サイト

 

Kads MIIDAさんの作品

アナザーサイドオブテヅカ_kads MIIDA

取り上げたのは『I.L』『鳥人大系』『W3』『ジャングル大帝』の4作品。

それぞれ、『I.L』が「艶やかさ」、『鳥人大系』が「奇しさ」(※不思議、神秘的を意味するクスシ)、『W3』と『ジャングル大帝』が「可愛さ」という、3つのテーマで描いたとのこと。手前にあるオレンジ色の作品は、会場でライブペインティングが行われた作品です。右下にピノコちゃんもいますね。

Kads MIIDAさん公式サイト

 

手塚漫画複製原画展示

アナザーサイドオブテヅカ_手塚治虫

手塚治虫先生の複製原画展示エリア

会場には複製原画の展示エリアもありました。

 

物販・グッズ

公式図録

「アナザーサイドオブテヅカ」図録

こちら3,000円也。展示作品の掲載は勿論のこと、参加作家5名へのインタビューや、各々がチョイスした手塚漫画がまるっと1話ずつ掲載されています。巻末には、手塚治虫スタジオを5名で見学にいった様子が紹介され、対談形式で手塚漫画について語られています。

 

廃アトム缶バッジ

アトム缶バッジ12個セット

前述の廃アトムが小さな缶バッジで販売。12個セットは3,800円也。

画像だと見づらいですが、ひとりひとりの設定があるようで、「怒りの制御ができず内部から焦げ臭い。失敗」「詰め込みすぎて内部から破裂。失敗」「中二病。失敗」などのコメントが添えられています。シュール。

 

この他にも寺田克也さんのグッズでは「プライム・ローズ」「どろろ」のスマホケースが販売。そのほかの作家さんの関連グッズも。詳しくは公式Facebookをご参照ください。

 

関連イベント

会期中、イベントもいくつか予定されています。

7月12日:Kads MIIDAさんによるライブペインティング

会期初日にライブペインティングがありました。

昨日は、Kads…

Another Side of Tezuka / 手塚治虫生誕90周年企画 by Rockin'Jelly Beanさんの投稿 2019年7月12日金曜日

 

7月20日:トークイベント

Rockin’Jelly Beanさん、Kads MIIDAさん、Sony Suzukiさんの3名によるトークショー。

ロッキンジェリービーンさんの誕生日をサプライズでお祝いしたみたいです。

本日はアナザーサイドオブテヅカのトークショーお越し頂きありがとうございました!さらにサプライズでジェリービーンのバースデイまで一緒に祝って頂き、ジェリービーン本人もマスクの下は感動の涙を流していた事でしょう。次は7/27(土)にもトークショーがあります。若干チケット残っているようですので、是非ご参加ください!

Another Side of Tezuka / 手塚治虫生誕90周年企画 by Rockin'Jelly Beanさんの投稿 2019年7月20日土曜日

7月27日:トークイベント

Rockin’Jelly Beanさん、金子ナンペイさん、寺田克也さんの3名によるトークショーです。当初、寺田克也さんは渡米中のためSkypeでの参加予定でしたが当日はネットワークの調子が悪く、電話回線での参加?となりました。

登壇されたのは以上の3名と、手塚プロのあらきゆうこさん。会場では手塚プロからのお土産としてサイダーと、デッドストックのシールがプレゼントされました。私は両方ブラックジャックでした。イエイ!

ブラックジャックサイダーとシール

 

また、今回の展示でアーティストの皆さんが題材にした、手塚作品のあらすじを紹介するレジュメも配布されました。何かのシンポジウムに来ちゃったかな?くらいの準備です。流石は手塚プロ。

トークショーで配られたレジュメ

 

今回の展示作品について

寺田克也さんは今回廃アトムを出品していましたが、展示のお誘いを受けた時点で既にiPadの中にアトムが1体描かれていたそうな。何を出そうか検討している間に(ラクガキの)アトムの絵が増えていたので、それを出すことにしたという経緯のようです。

キチムシで展示していた3作については、1回きりしか展示されておらず、もっと見てほしくて展示することに決めたそうです。「どろろ」「プライム・ローズ」が全身絵だったため、それに合わせる形で「アラバスター」に亜美の全身図を加筆したとのことです。

 

「黒テヅカ」について

金子ナンペイさん曰く、「絵は“白”だけど、話は全て“黒い”」とのこと。

これは、端的に手塚治虫作品の特徴を言い表しているかもしれません。子供時代にアトムを読んで、その話のダークな部分に怖さを感じていたという金子さん。色々な手塚作品があるから、それを今の人にもっと読んでほしいと、政治家のように訴えておられました。(トーク中、かなりヒートアップしていたのが印象的でした)

また、寺田克也さんの話でとても印象的だったのが、以下の内容。(主旨はこんな感じだったのですが、細かい部分は私の解釈で書き起こしているので注意です)

子供向けの漫画とはいうが、当時の子供たちはみんな戦争を知っている。当時は人間の負の面を見せながらも、命の強さ・生きることを教えるような手塚漫画が必要だったのではないか。それを後の時代になって追いかけて読むと、「黒い」部分に畏怖してしまうのだと思う。

なるほど…!と唸ってしまいました。時代を越えて愛される作品でも、その世代ごとに経験してきたものが異なる以上、作品の受け取り方にも違いが出る訳ですね。そうしたジェネレーションギャップを埋めていくことも、名作を後世に残していくために必要なことなのかもしれません。

 

次に手塚作品を描くなら、何にする?

金子ナンペイさんは「リボンの騎士」、寺田克也さんは以前コミックキューで描かれた「魔神ガロン」をもう一度、とのこと。また、どこかで「火の鳥」をちゃんと描きたいとのこと。

 

他にも様々な話題に及び、質疑応答では漫画アプリで手塚治虫作品を読ませてはどうか、といった討論会のように白熱するシーンもありました。「手塚治虫作品をもっと知ってほしい」ことから始まった企画展ですが、来場者の心には何かが芽生えたのではないかなと思います。(上から目線ですみません)

私ももっと手塚漫画読んでみようと思います。とりあえずアラバスターとプライム・ローズかな。

 

関連作品

今回寺田克也さんが題材にした手塚漫画は以下の通りです。

 

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