2018年5月2日、GINZA SIXの蔦屋書店にて開催されたトークショーに行ってきました。
(今回は写真を撮り忘れたので、文字ばっかりです。)
目次
開催概要
登壇されるのは、バロン吉元さん。そしてそのバロンさんの魅力を語るのが、細馬通宏さん、山田参助さん、寺田克也さん。そして聞き手として、バロンさんのご令嬢であるエ☆ミリー吉元さん。
バロン吉元さんと寺田克也さんが京都・高台寺にて開催中「バッテラ」展に合わせて、現在蔦屋書店銀座店ではお二人の関連グッズを販売するフェアが開催中なのですが、そのフェアの一環としてのイベントのようですね。
現在、銀座 蔦屋書店では、京都・高台寺での「バッテラ展」に合わせ、バロン吉元先生と寺田克也先生の作品・グッズを販売したフェアを開催中ですが、この度、トークイベントの実施が決定しました!
今回のトークイベントでは、『二つの「この世界の片隅に」』や『今日のあまちゃん』などの著書が話題の細馬通宏さんをお迎えし、劇画家バロン吉元先生の魅力について、読み解き、語って頂きます。また、『バロン吉元画侠伝』の編集を行った山田参助先生、さらに寺田克也先生もご登壇頂き、聞き手にはバロン先生のご令嬢・エ☆ミリー吉元さんという、スペシャル豪華なファン必見イベントです!
いぶし銀なバロン吉元作品の話を、銀座で花開かせましょう。
皆さまのご参加をお待ちしております。
京都で開催中の「バッテラ」展については当サイトの記事も宜しければ御覧ください。
トークの内容
トークは、スクリーンに映し出された画像を参照しつつ、ゲストの皆さんがメインでバロン漫画(劇画)※の魅力を語りながら、要所でバロン吉元さんに当時を振り返っていただくような進行でした。この記事では、その内容を一部だけご紹介しようと思います。
※予め白状しますと、私、バロンさんの作品についてはほぼ無知です。トークの内容について聞き間違いや解釈違いもあるかもしれませんが、おかしな点があればご指摘いただけますと幸いです。
※劇画(げきが)とは…漫画の一ジャンル。デフォルメされた漫画が子供向けのものとされていた時代に、もっと写実的で現実的なストーリーで描かれた漫画のことを劇画と呼んでいるようです。いわゆる「劇画調」の濃い絵柄のものが該当するのかも。(明確な定義はない模様)
『どん亀野郎』
山田参助さんがバロン漫画の中で「もっともキャッチ―」と言い、紹介されたのが『どん亀野郎』。
ストーリーとしては、真珠湾攻撃を目指す日本海軍潜水艦隊の、はるか後方にいた小型潜水艦「ドン亀」を舞台に、16名の乗組員たちがコメディを繰り広げる、といった感じでしょうか。
満州生まれのバロンさん。少年の当時は戦記物が多かったそうですが、それらが自分には描けないと感じたそうで「(戦記物を)まともには描けないが、斜めに見て描いてみる。変だなというところがあってもリアルに描こうとした」とのこと。戦闘機などの現物を目の当たりにしていることが、表現のリアリティに繋がっているのだろうと、細馬さんが話しておられました。
バロン吉元さん独特のテンポ
バロンさんの劇画は現代ではあまり見られない4段組みで、1ページのコマ数が多く、しかも1コマ1コマしっかり描き込まれているのが特徴とのことです。細馬さんによれば「ページの中でギャグが途切れない」というのが、バロン漫画のギャグ。
山本リンダの替え歌のシーンがあるのですが、台詞運びが、実際に歌っているかのように途切れなくリズミカル。台詞のテンポに合わせて、モブのような登場人物までイキイキと描かれているのが印象的でした。
群像劇というか、一か所に大勢が集まってストーリーが展開される話づくりには、黒澤明監督の「どん底」の影響もあるとのことでした。
踊りといえば、Twitter公式アカウントなどでもバロンさんのダンス動画が公開されているのですが、とにかく踊るのが好きだというバロンさん。トークイベントでは、ちばてつやさんの仕事場でバロンさんが一人で5時間も踊っている様子を撮影した動画もお披露目されました。(どうかしている)
多様なタッチが混在する画作り
頭身や絵のタッチが全く異なるキャラクターが、同じ漫画の中に登場するのがショックだった、と話されたのは山田さん。それを真似しようとしても「空間をねじまげる感じで難しい」とのことでした。寺田さんは、そんなバロン漫画を読んで育っているので、漫画の幅が広がったそうな。
これについてバロンさんは、杉浦茂さんの影響があると仰っていました。
高台寺「バッテラ」展で描かれた襖絵
高台寺で展示中の襖絵は、蒸気機関車と龍が一つになったような印象的なビジュアルです。バロンさんの親が満州鉄道関係の商社勤めで、子供時代は機関車が好きで好きでたまらなかったとのこと。機関車の車輪の動く様子などが怖いけど、それが好きだと。好きなもの同士をくっ付けたら面白いんじゃないか、という発想からこの襖絵になったそうです。
この襖絵は綿密な計算のもとに作られたものではなく、描き進めるうちにモチーフが浮かんで、どんどん描き込んでいったそうですが、これがバロンさんの劇画の描き方にも通じるそうな。
バロン吉元さんの劇画と一枚絵
バロンさんは劇画を描いたのち、「龍まんじ」と名乗り一枚絵を描くようになったそうです。それを受けてファンの中からは「もうかつてのバロン吉元さんの作品は見られないのか」と残念がる声もあったそうな。
しかし、元々バロンさんは、劇画を描く際にもネームを作らないという独特の作風。エ☆ミリーさん曰く「襖絵を見て、劇画の延長線上で絵画を描いているのだと分かった」とのこと。
絵を描きながら新しい発見をしていき、それが独特の表現に繋がっていくという、バロンさんの作風は劇画にも一枚絵にも通じるということですね。
『柔侠伝』シリーズ
バロン吉元さんの劇画作品『柔侠伝』。こちらを題材に話されていたのは、コマ割りと、ファッション性についてでした。
コマ割りのリズム感
これについては寺田さんのコメントが非常に分かりやすかったです。普通の漫画家なら、手を抜きたいのでロング(引き)の構図で風景描写をして済ませてしまうところを、バロンさんはロング(引き)とアップ(寄り)の構図を繰り返すのが特徴的とのこと。これが台詞運びや作画工程などの、バロンさんの生理的なリズムに通じるのではないか、とのことでした。
また、着物がフワフワせずに物理としてキャラクターの体の動きに付いて行っているのが、バロンさんの観察力、絵の上手さの表れだとのことです。着物については、バロンさん曰く「椿三十郎を描いている」とのことでした。
(実際のページを見ながらでないと分かりにくいですね…すみません)
ファッション性
劇画家のイメージからは意外に思えますが、20歳頃にセツ・モードセミナーに通っていたバロンさん。「セツ風」のスタイル画(ファッション画)も描いておられたそうで、長沢節さんの筆使いが、日本画よりも力強くイキイキとしていてハマったとのことでした。「日本画の筆でなく洋画の筆で描いているのがマジックみたい」とバロンさんは述懐されていました。
長沢節さんからバロンさんのファッション画は絶賛されたそうで、他の生徒を集めてバロンさんの絵を見せ、「これが本当のファッションイラストだ」と称賛されたそうです。それってめちゃくちゃ凄くないですか…?
この記事に掲載できる画像がないのが残念ですが、当時のバロンさんのスタイル画、本当にかっこいいです。全く古びていない印象でした。現代の若い女性が見ても惚れ惚れするのではないでしょうか。
長沢節とセツ・モードセミナー
ご存知ない読者向けに簡単に解説。長沢節(ながさわ・せつ)さんは、日本のファッションイラストの草分け的存在。長沢節さんが開校した美術学校「セツ・モードセミナー」は多くのデザイナーやイラストレーターを輩出しています。残念ながら2017年4月に閉校。
2017年には、弥生美術館で「生誕100年 長沢 節 展 ~デッサンの名手、セツ・モードセミナーのカリスマ校長~」が開催され、バロン吉元さんも会期中のギャラリートークにゲストとして登壇されています。
インターネットミュージアムというサイトで展覧会の様子が分かりやすくまとまっていました。
『バロン吉元 画侠伝』
トークの内容まとめは以上ですが、他にも当時を振り返る濃密な話が繰り広げられていました。後日、アーカイブとしてトークの様子が公開されるそうです。(バロン吉元さん公式アカウントより)
最後に紹介したいのが『バロン吉元 画侠伝』です。今回のトークに参加された山田参助さんも編集に関わっている、膨大なバロンさんのアートワークの中から代表作をチョイスした豪華画集です。
中には、漫画家・イラストレーターがバロンさんについて語る記事も。手塚治虫さんや鈴木敏夫さんなど、豪華ゲストが沢山です。寺田克也さんのコメントも掲載されています。
日本の漫画の歴史を作ってきた、バロン吉元さんの画業を知れる一冊です。
「トーチweb」というサイトでバロン吉元さんについて詳しく紹介されているので、ご興味のある方はこちらも御覧になることをお勧めします。山田さんのコメントも。